平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

夜の美術館と現代アート茶会  2009/02/09

掛川の現代美術研究会と二の丸美術館がアート・プロデューサーであり現代美術ジャーナリストの山口裕美さんhttp://www.so-net.ne.jp/tokyotrash/に声を掛けて始まったのが『夜の美術館と現代アート茶会』。今回は昨年に続き第二回目(昨年はのっぴきならい予定とぶつかって参加できなかった)。わたしが訪れた日曜日は、風もほとんどない穏やかな日中だった。会場には見覚えのある顔がちらほら。わたしがコーディネーターを務める「掛川市民大学」「大学院」のメンバーの何人かがボランティアとしてこのプロジェクトの参加していて、入り口で出迎えてくれる。

今回のメインアーティストは中村ケンゴさん
http://www.nakamurakengo.com/
この席には、もてなし、しつらい、ふるまいのすべてがあった。茶湯の「わび」を表面的な「わび・さび」で語るのではなく、「詫びる(侘びは詫びである)」という根元的な部分まで掘り下げてこの茶会を評するなら、それは間違いなく村田珠光、武野紹鴎、千利休の系譜である「侘び茶」の席ということもできる。アクリルの棗(なつめ)や茶杓、スピーチバルーンの日の丸、オリジナル・Tシャツなどのお道具類を用いた現代アート茶会が、間違いなく侘び茶と地続きにあったとだれが想像してこの場に足を運んだだろう。

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遅ればせながら山口裕美さんさんのご著書『現代アート入門の入門』(光文社新書)↓を数ヶ月前に拝読したばかりであった。しかし、こんなにも早くご本人にお会いできるとは思ってもみなかった。

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わずか14名の贅沢な席。「もてなし」とはまさにこういったことをいう。ワインを供するためだけに東京から駆けつけたソムリエの松田太郎さんもこのあとに参戦する。

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床の間に掛けられたのは中村ケンゴさんのアート『スピーチバルーン・イン・ザ・ヒノマル』。パネルに和紙、岩絵具、顔料で描かれている。2002年の作品。
パッと眺めると赤丸内のスピーチバルーンに目が行く。が、次の瞬間、それが日の丸であることに気付かされ、ハッとする。
スピーチバルーンは、一座建立した一人一人を表現しているともいえる。

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掛川産にこだわり一品一品用意された点心。一見質素に見えるかもしれないが、中には、主催者である「掛川の現代美術研究会」が丸3日もかけてスモークした掛川ポーク桜の丸太スモークの自家製ハムも供された。

点心(献立)は以下の通りである。

掛川産 ホルスタイン牛「蘇」とジャージ牛の「蘇」
飛鳥時代のチーズの復元   掛川・蘇庵
掛川産 待ってたトマト   旧大東町農家
掛川産 掛川ポーク桜の丸太スモークの自家製ハム  桜の家&現美研
イタリアンな卵焼きキッシュ   掛川・アトリエM.O.F
フォッカッチャ    掛川・アトリエM.O.F
野菜スープ      掛川・アトリエM.O.F
稲荷寿司   掛川・アトリエM.O.F


ワイン 白    ソムリエ 松田太郎 推薦
  MARQUISD’ANGERVILLE(マルキ・ダンジェルヴィン)
  MICHEL MAGNIEN(ミッシェル・マニアン)
  VERGET(ヴェルジュ)
  BASA2007(テレモ・ロドリゲス)
  Ercavio Blanco2007(エルカヴィオ)

菓子
  「天神絵馬藷蕷饅頭」  掛川・梅廼家
  「いなり煎餅 きつね」 京伏見 いなりや
  「辻占煎餅」      京伏見 いなりや

詰 「巴里の話」(掛川産抹茶)掛川・松下園
待合 「九重」       仙台・九重本舗玉澤

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懐紙にも注目

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掛川おかみさん会会長の山本和子さん(呉服「大黒屋」経営)のお点前。茶筅の響きが空間を支配し、一瞬他の音が一切聞こえなくなる。

外はいつの間にか「逢魔ヶ時」。

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庭には満開の梅。それに呼応するように、茶碗にはこぼれそうな梅が咲き誇る。

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茶杓と棗(なつめ)。共にアクリルでできている。中村ケンゴさんのアートディレクションに応え、腕を揮ったのはアクリル職人の俵藤ひでとさんhttp://www.modern-mp.com 。素材はアクリルだが、技術は日本の技・ひきもの(旋盤)で、百分の五ミリという精度。
我々はアクリルというとすぐに倉俣史朗というデザイナーを思い浮かべる。確かに彼の仕事は偉大ではあるが、それを尊敬しつつも、いつまでも倉俣史朗にだけしがみついているわけにもいかない。こういった若き才能を発掘する眼を持たなければいけない。伝統とはそういう眼を持つ態度そのものをいう。

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茶杓にわずかに引かれた赤が棗や床の間の軸と響き合う。

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利休もきっと当時はアバンギャルドだったと俵藤さんは想いを巡らす。
わたしが稽るに、茶杓の素材、例えば竹は、それが自然が故に、人間の力ではどうにもならない性質を抱えている。そこにどこまで「人間の意図」が介在していくか。そうして、どこまで自然の力や性質に委ね、姿を残していくか。それが素材との係わり方だ。きっと自然素材や人工素材ということをこえて、アクリルと向かい合うということも同じ問題を抱えているのではないかとおもう。この棗、アクリル素材故に、サイドからわずかな光が射しこみ、お抹茶のグリーンが寂光で照らされる。

懐紙に使われていたのは、なんと棗の図面。粋な計らいである。

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夜の美術館をLEDのペンライト一本を持って経巡る。足下もおぼつかない真っ暗な中で、「自分が創る照明」が作品の細部を照らし出していく。どのメーカーのLEDがいちばん適しているか、何本も何本も実際に光を当てながら決めたのだとアートプロディーサーの山口裕美さんは云う。こういった眼に見えない準備が全体の緊張感を高めていく。

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茶室へ移動し、冷えた体を温めるための一服が点てられる。

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床の間にかかるのはミヤケマイさん作のお軸。テーマは地元掛川の鯨の物語がモチーフになっている。これが
事任神社を中心に伝わる鯨伝説である。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1050.html

今回の企画は昨年に続き二回目。一回目のゲスト・アーティストがこのミヤケマイさん。ミヤケマイさんとはわたしも以前にご一緒させて頂いたが、面影日本の深部を、まことに軽やかにカタチにしていく若きアーティスト。以前リンクをはらせて頂いた(このページの中央あたり→)。http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/699.html。現在は「ご褒美」のために巴里へ渡航中とのこと。

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ライトアップされた雄山 掛川城



もっとアーティストや企画をされたみなさまと話がしたかった。だが逆に言うとこの「不足」がちょうどいいのかもしれない。

チャンスがあればここにわたしの持っているアイデアを重ねてみたい。なぜなら茶湯は「かさね」の文化そのものでもあるからだ。

俵藤ひでとさんのサイトもぜひ。
http://www.modern-mp.com/reports/delivery_works/052/

中村ケンゴさんのサイトにも報告がある。
http://blog.livedoor.jp/kengo_blog/archives/51873251.html

●2010年の茶会の報告はこちら
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1069.html

●2013年の茶会の報告はこちら
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1871.html


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