平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

『夜の美術館 現代アート茶会』  2010/02/07

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昨晩の『夜の美術館 現代アート茶会』は正客として楽しませて頂いた。テーマは「気韻生動」。気韻とは趣のこと。趣とは、「おも(主・面)」がある方向をもつことで、物理学的にいえば、「おも」が物質・エネルギー・運動の三位一体となることである。また、「生動」は、生き生きと動くこと。特に絵や文字、言葉などが趣を持つことをいう。
この茶会に風炉先屏風という様式美を持った新作を発表されたのが、名和晃平さん。今や自他共に認める日本屈指のアーティストである。それを直接支えたのが、アートプロディーサー・山口裕美さんと掛川の現代美術研究会を主宰する山本和子さんとその仲間たちである(山口さんも山本さんも一言でいえば、実に格好が良い。格好が良いというのは構えが良いという意味である)。

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席からはライトアップされた寒梅が見える。

まずは茶会の前に掛川二の丸美術館で、鈴木コレクション(鈴木始一氏寄贈)館蔵品による「日本画名品展」を拝見する。この日のために、独特の明かりをつくってある。館内の照明を落とし、作品に明かりを集中させるスポット光だ。
そこでわたしの目に最初に飛び込んできたのは横山大観の『海暾』という作品であった。
ところで、わたしはこれまでに何度か岡倉天心の『茶の本』を読んできた(今回の茶会のために、わたしは第四章を再読した)。茶といえば、わたしは必ずこの天心から入るようにしている。天心から利休と織部を往還したり、栄西へ遡ったり、和歌を巡ったり、茶室建築を眺めたりしてきた。それは一種の儀式のようなものである。それは日本の漫画を語るとき、手塚治虫から入るようなものである(そこには当然、いい加減に手塚から入る漫画論はやめたらどうかという批判もある)。天心の『茶の本』は岩波文庫でも読めるが、あるとき思い切って平凡社の『岡倉天心全集』(全9巻)を購入し、机に向かうときにはこれを開くことにした。その天心が東京美術学校を開いたときの第一期生として入学してきたのが横山大観なのである。何故か因縁めいたものを感じる。
ちなみに、天心は、妊娠中だった妻に論文『国家論』を火中に投ぜられ、それを美術論として書き改めたことはつとに知られた話である。そこから天心の美術に対する考察の目が開いたのではないだろうか。

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さて茶の席である(というか、この夜の美術館という仕掛けがそもそも寄付であり、露地であり、茶席はとっくに始まっているのだ。このプロジェクトを、第一部の「夜の美術館」と第二部の「現代アートの茶会」の二部構成だと思ってはいけない)。

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茶名「若葉の白」(掛川産抹茶)  詰  掛川・松下園
菓子 主菓子「梅花蓍蕷饅頭」  掛川・梅廼家
   干菓子「辻占 福寿草」  金沢・諸江屋
   「笑う門には福来たる 福和内」  敦賀・笑福堂
待合 「九重」  仙台・九重本舗玉澤
点心 「春の点心」  掛川・月茂登
・ 菜飯  掛川初馬の月茂登女将実家のすずな、すずしろ
・ 豚のにこごり  掛川ポーク
・ 卵焼き 掛川上内田のさくら卵
・ 天ぷら 浜北のスナップエンドウ、ふきのとう
・ 酢の物 掛川はっさく、掛川のほうれん草など
・ 小吸い物 シラス真蒸 御前崎のしらす 梅干し 掛川の梅

梅の一献 「立春朝搾り 平成二十二年度庚寅二月四日」吟醸 生原酒 
                       島田・大村酒造
「自ら自ら」掛川里山栗焼酎 芝川町・富士錦酒造


    
   茶の世界では、何百年も前から徹底した「地産地消」である

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写真の明度を上げ、多少なりともグルーの立体感がわかるようにしてあります。

茶室に入ってすぐに気づくのは、床の間に軸も掛けられておらず、花も活けられていないことだ。ただ、名和さんの作品だけが床の間に置かれている。これは俳句でいえば、「無季の句」ということになろう。俳句には季語を入れるというは連歌から受け継いだ約束事だが、それを破った(型があるから型破り)のが、まさに「無季の句」である。ただし、そこには季語はなくても季題はあるとか、枕詞があるとか、そういうことはあるだろう。今回の名和さんの作品・風炉先屏風でいえば、季題に代わるものが「気韻生動」になるのだろう。枕詞は、掛川に掛かる「夜の梅」か。
風炉先屏風に描かれた絵は名和さんの言葉を借りるなら触媒であり、植物であり、未知なる生命体でもある。「この生命体はどのような速度を持っているのか」というわたしの質問に対して、かれは「ゆっくりと、だが、はやく」と答えた。
手法は「グルー」と呼ばれる黒い接着剤によって描かれている。このグルーとアーティストとの関係は、重力場においてはかなりやっかいな関係にあるだろう。どこまでを重力に任せるのか。そうしてどこからを力で操るのかという問題だ。名和さんには伺っていないが、きっとこの作品は屏風を寝かせて描いているのではなく、立たせたまま描いているのではないだろうか。
また、この作品は未完成の完成だともおっしゃっていた(実際、茶会の始まる少し前まで筆を入れ続けていたという)。考えてもみたら当然だ。なぜならそれは常に増殖を続ける生命体そのものだから。



それから、今回四席あるこの茶会で、まさに一期一会の場をご一緒させて頂いた(まさに、一座建立)皆様に深くお礼を申し上げたい。お隣でたっぷりとお話をさせて頂いた着物の似合う名和さんのゼミ生Yさん(京都造形芸術大学院生)、名和さんの作品を扱う白石コンテンポラリーアートの久保田さん、ワンピース倶楽部の石鍋さん、山梨県立美術館の伊藤さん、タイ人作家プラープダー・ユンさん、アーティストの井上文太さんなどにもお会いできた。ちなみに今回たっぷりとお話させて頂いた井上文太さんは、あの金子國義に師事し、三谷幸喜さんの新作『新・三銃士』の人形をデザインをされた方だ。

文太さんについては
http://ja.wikipedia.org/wiki/井上文太

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最後になるが、このような質の高い場を連続して提供しくれるアートプロディーサー・山口裕美さんと掛川の現代美術研究会を主宰する山本和子さんには大きな拍手を贈りたい。



○名和晃平さんのサイト
http://www.kohei-nawa.net/jp/index.html

あるいはブログ
http://www.studiovoice.jp/blog/nawa_kohei/


○山口裕美さんのブログと情報は
http://tokyotrash.blog.so-net.ne.jp/

http://www.so-net.ne.jp/tokyotrash/


○「あるYoginiの日常」さんという方のブログにも茶会の詳しい報告がある。このブログには、他の美術関連の記事も豊富に紹介されている。ぜひ、のぞいてみて欲しい。
http://memeyogini.blog51.fc2.com/blog-entry-969.html


【昨年の報告】

◆昨年わたしが記した「現代アート茶会」の模様。検索エンジンで、ここからわたしのサイトへとんでくださった方が実は結構多い。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/754.html


◆俵藤ひでとさんのサイトもぜひ
http://www.modern-mp.com/reports/delivery_works/052/


◆中村ケンゴさんのサイトにも報告がある
http://blog.livedoor.jp/kengo_blog/archives/51873251.html

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◆2011年の東泉一郎さんの茶会の様子はこちらで。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1490.html

●2013年の茶会の報告はこちら
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1871.html


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