平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

静岡県営草薙総合運動場体育館と内藤廣建築設計事務所  2011/03/06

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静岡県営草薙総合運動場体育館(静岡市駿河区)の新設にともなう、新設計者が決定したことを新聞記事で読んだ。プロポーザル方式で公募・審査し、「内藤廣建築設計事務所」に決定したということだ(担当静岡県公園緑地課 マスコミ発表2011年2月16日)。
新施設の特徴は静岡県産の杉をふんだんに使い、それを鉄鋼と組み合わせて表情をつくり強度を出すというところにある。いわゆる木材の地産地消である。設計は11年度中に終え、12年度から着工、14年度中の完成を目指すということだ。
(詳しくは静岡県の関係サイトへ http://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-560/renewal.html

内藤廣さん(内藤廣建築設計事務所・東京大学副学長)が、今回の設計案にあるような木材をふんだんに使うようになったのはおそらく「海の博物館」(三重県鳥羽市)からであろう。内藤さんは、1990年、91年とにかけて海の博物館の収蔵庫、展示室を完成させた。
この博物館を訪れたことのある人ならわかって頂けるとおもうが、展示室や一部入室可能な収蔵室にはふんだんに木が使われており、その「骨格」に包まれると、まるで鯨に呑み込まれたピノッキオになった気分なのである。
http://www.umihaku.com/material/index.html

実は、内藤廣さんの設計するスペースに数年間お世話になったことがある。東京は九段下にある「二期ギャラリー册」(2004年竣工 旧フェヤーモントホテル跡地マンション一階)というスペースである。

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立ち上げ当初のコンセプトは編集工学研究所の松岡正剛さん(松岡さん、お元気ならばいいのですが)が担当されたが、本と現代美術・現代工芸が共存する大きな可能性を秘めたスペースであった。大振りの書棚に四方を文庫本に囲まれた天井高の空間は、桜の名所・千鳥ヶ淵の散歩道と呼応するように通りに面して弓なりの設計となっている。書棚や展示棚、空間はさすがの内藤デザインで初めて訪れる人は、間違いなく気持ちごと丸呑みされてしまうのではないだろうか。わたしはとある事情から二年間でこの空間のディレクションからは離れてしまったが、多くの出版関係者、アーティスト、詩人、作家などともここで知り合うこととなった。中でも詩人の高橋睦郎さんや作家の井上ひさしさんなどが強く印象に残っている。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1147.html
ブックデザイナーのホロンさん
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1087.html
アベキヒロカズさん
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1471.html
らともここで出会った。そういう出会いの場所を設定してくれたのは、すべて内藤さんがつくってくれた空間なのである(果たして今は、どうなってしまっているのかわからないけれど)。

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内藤さんは、その人柄のせいなのか、あるいは手がけてきた作品群の印象からなのか、磯崎新や安藤忠雄のような派手さはない。だが、使い手のことを考え抜いたすばらしい仕事をたくさん残されている。環境循環型素材が効果的に使われた建築には以下のようなものがある。

安曇野ちひろ美術館(1997年 東京のちひろ美術館は2002年)、牧野富太郎記念館(1999年)、みなとみらい線馬車道駅(2003年)、鳥取県芸術文化センター(2005年)、日向市駅(2008年)、高知駅(2009年)、虎屋京都店(2009年 とらや御殿場店、ミッドタウン店など)、旭川駅(2010年)など。


◆その後の記事
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1510.html

http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/2028.html



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