平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ 掛川現代アートプロジェクトVol.6 「夜の美術館と現代アート トークショー」  2012/09/13

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( ↑ )本企画の最初の一滴をつくられたNPO法人掛川の現代美術研究会 山本和子さん。この人の情熱がなければ、この企画そのものがなかった。こういった人は、もっともっと評価されるべきだ。

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掛川現代アートプロジェクトVol.6 「夜の美術館と現代アート トークショー」 

今年度のテーマは〈愚公移山〉。
わたしはこの言葉を2003年の自分のノートにメモしてある。このころはやたらと荘子を読み漁っていて、そのなかに「愚公移山」を見つけて芋づる式に列子の「虚の道」に辿りついた。

それはさておき、このプロジェクトではアートプロデューサーの山口裕美さんが現代アーティストと職人をきそわせることで、現代を呼吸する茶道具の揃いを創ろうというもので、今年で早6回目を迎える。
「あわせ・かさね・きそい・そろい」という山口さんの企みは、茶の文化を貫く骨太の態度でもある。

このプロジェクトは、次の二つから成る。
まずは茶道具を創るアーティストを招いてのトークセッション。そうしてハレの日のために用意された茶道具を使っての現代アートの茶会の二つである。それぞれには、その企画を支えるための掛川市二の丸美術館の照明を落とした中でペンライトをもって作品を鑑賞するという趣向の「夜の美術館」が付帯する。

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先達て、その第一弾となるトークショーに出掛けた。
第6回目となる今年は細密画の本田健さんが招かれた。
本田さんはチャコールペンシルで対象を描く。風景が刻々と変わって行くように、チャコールペンシルで描かれた風景は、刻々と炭化し、経年の力を借りて変化をみせていく。

本田さんは遠野の風景を描く。自然を描く。しかし彼の眼はけっして対象となる風景を探しているのではない。ただひたすらにこれぞという「線」を探し続けている。そうして対象を丹念に描く。だがそれはスーパーリアルではない。むしろ描かないという描き方をする。花の芯を白く抜いたりする。

本田さんの作品の前に立つと、鑑賞者はフィジカルに作品の中に入り込む。入り込むとはどういうことか。それは肉感が伴うということだ。入り込むためには、作品のどこから中に入って、どこに立って、どこへ抜けていくかというベクトルが発生するということだ。故に、作品の中に東西南北、前後左右、天地ができることを意味する。重力の発生だ。鑑賞者が作品に入っていくことで作品そのものは初めて完成する。故に本田さんの描いた水の流れ、その淵に立つと、落ちてしまいそうで恐怖を覚えるのだ。

あるとき、子どもが本田さんにこう質問したという。
「何人で描いているんですか」

あるギャラリーでは、訪れた若者が本田さんの作品を観るなり何かに憑かれたようにこう叫びなら、会場をあとにしたという。
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ だれかに云わなきゃ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ だれかに云わなきゃ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」


さて、肝心なことを忘れてはいけない。そんな本田健さんのこしらえる現代を呼吸する茶道具とはいったい何か。6回を迎えたこのプロジェクトがまだ創っていない道具とは・・・いや、邪推は野暮だ。本田さんが風景を描くように、丹念に日々の生活を送りながら、やがて来る春の茶会を待つことにしよう。丁寧に、丹念に、日々。


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( ↑ )向かって左から、アートプロデューサー山口裕美さん、アーティスト本田健さん、彫刻家 水谷靖さん

この日の山口さんの運びは実によかった。作法があった。

二の丸美術館で自作の能面を前に伺った彫刻家の水谷さんの話も実に興味深かった。能の面に関しては、わたしもかつて時間をたっぷりとかけて取材をしたことがあり書き出すとキリがない。とにかく面(おもて)は、「うつし」であるということだ。元の面を、うつして、うつして、うつして、うつしとる。そうして、はじめてうつしきれないオリジナリティーが創出する。最初からオリジナリティなどないのだ。わたしが主に大学の授業で言い続けている「情報意匠論」は、まさにここに端を発する。



昨年までのプロジェクトの様子。
http://www.hirano-masahiko.com/tanbou/1708.html



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※今日現在、twitter上でつぶやかれている平野雅彦さんは、私平野雅彦ではありません。


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