平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

『桑港の鶯』 〜山内功一郎による案内

spin5


「なるほど、きっと桑方西斯哥港周辺にあるいくつもの書店を、鶯の谷渡りのようにして歩いたルポルタージュに違いない」  
『桑港の鶯』というタイトルを見たときに、わたしはそう直感した。筆者の名は山内功一郎http://www.hss.shizuoka.ac.jp/research/jiko_c/lang/yamauc.pdf、その冊子『Spin 05』 特集「古本屋を怒らせる方法!海外編」(みずのわ出版)に収められた一編である。先にルポルタージュと書いておきながら果たしてそれでいいのか、それともフィールドワークといった方が適切か。もっと言えば遊行か。

山内は2008年の9月にサンフランシスコに二週間ほど滞在した。渡航の目的は、果たしてカリフォルニア大学バークレー校で開かれたfacultyだったのか、それとも本屋巡りが主たるものだったかはわたしにはわからない(ニヤリ)。とにかく山内はこの短い滞在期間のなかで、旺盛に地元の本屋を経巡っている。これがなんとも、古本好きにはたまらないガイドに仕上がっている。ビブリオマニアの琴線に触れる目線がたまらない。その眼は這うようにして、舐めるようにして、書棚の配架配列や一冊一冊の書物の佇まいを店内の匂いとともに手際よく紹介していく。

City Lights Books、 Green Apple Books、 Barnes & Noble Booksellers,Fisherman’s Wharf、 Moe’s Books、 Aardvark Books、 Half Price Books,Shattuck、 Serendipity Books、古書店から新刊書店まで、まさに鶯の谷渡りのように、次から次へとガイドしていくのだ(なかには閉店してしまった店もあり彼をがっかりとさせる)。読者は彼の案内によって目の前の棚を見ているかのように錯覚させられる。
ここでは敢えて細かな案内には踏み込まない。が、なかでもわたしの目線を釘付けにしたのは、山内自らが撮影したミシェル・フーコーの研修室のような古書店セレンディピティー・ブックスの店内を収めた一枚だ。とにかくすごい。よくぞ撮ってくれたこの空気観。(serendipity なんとも古本屋にはぴったりの名前ではないか。このセレンディピティーには詩集の在庫だけでも10万から20万冊もあるという)。

さて、本稿のタイトル『桑港の鶯』の謎解き?となるヒントを挙げておこう。わたしはてっきり、山内が自らを谷から谷へと渡る一羽の鶯に見立てたとばかり思って読み進めた。大の本好きが、本屋から本屋へ、景色のある書棚から歴史を抱えた書棚へ、寡黙な詩集から饒舌な詩集へと飛びうつる自らの様を鶯の谷渡に喩えたとしても不思議ではない。
しかしわたしの読みはみごとに外れていた。この「鶯」は日本を代表するシュールレアリストの北園克衛と係わりがあったことが最後の方で明かされる。きっと今ごろ山内は、桜の花びらを浮かべた盃を片手に、北園鶯のオトグラフを楽しんでいるに違いない。詳しくはぜひ本書を読んで欲しい。

嗚呼 神保町が呼んでいる。早稲田の古書街が囁きかける。大阪の天満・天神界隈が手招きしている〜。

sano

『佐野繁次郎装幀集成』は、みずのわ出版だったんですね。必ず購入致します。

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林哲夫氏の『古本屋を怒らせる方法』も店頭で目立っていますね。

さっそく林さんが

http://sumus.exblog.jp/10731725/


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