平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

静岡大学人文学部言語文化学科「情報意匠論」《日本新聞協会賞優秀賞受賞》 2008/09/04


 この度、第28回 日本新聞協会・新聞広告賞 広告主部門優秀賞を受賞した(昨日9月3日マスコミ発表)。静岡大学人文学部言語文化学科「情報意匠論」 http://www.hirano-masahiko.com/informationDesign.html という授業で、学生が育てた果実の一房である。ちなみに日本新聞協会というのは、朝毎讀をはじめほぼ日本中の新聞が加盟する社団法人である。
 学生のセンスと頑張り、そうして何よりもスポンサーの深い理解と決断が今回の受賞へとつながった。対象作品名は「静岡大学の学生によるCSR広告シリーズ」。ちなみに「CSR」とは、「企業の社会的責任」( Corporate Social Responsibility)のことである。
 まずはこの場において、ずっと「情報意匠論」の授業を支えてくださったスーパーマーケットさま、アッパレ会関係者のみなさま、ここには表記しきれないおおくの関係各位に厚く御礼申し上げます。
 情報意匠論では、ここ三年で静岡新聞広告賞のグランプリ、同じく読者が選ぶ広告賞、同じく奨励賞、静岡大学学長表彰受賞などの結果を出してきた。また人文学部言語文化学科・小二田先生のご協力で学生自らが本当に使いやすい「履修の手引き」もつくってきた。そのほかにも、図書館の新しいサービスや静岡市の観光の在り方についても、いくつも提案して来た。

 さて、日本新聞協会のサイトによれば、以下が日本新聞協会賞の広告賞における選考基準である
■新聞広告賞は、「新聞広告活動の全過程」を対象に選考する日本でただ一つの表彰制度です。企画性、広告活動の成果など、新聞広告の新しい可能性を切り開いた活動を発掘しようというものです。選考委員会は、
1.新聞広告の新しい利用法や表現領域の開拓に成功した活動
2.新聞広告を使って広告目的に合った大きな効果をあげた活動
3.新聞媒体の特性・機能を活用し、新聞と広告の発展に対し大きな貢献をした広告活動
 といった基準で選考いたします。とある。

 学生諸君、おめでとうございます。今回は全国的な評価だけにとても嬉しいし、この賞に限っては「まぁ、学生もがんばってるみたいだから、賞でもあげておくか」では絶対に取れない。広告作りのプロと企業が力を合わせてもこの賞の受賞は難しい。
 さて今回、情報意匠論が「日本新聞協会賞」という賞を頂く価値はいったいどこにあるのだろう。それはけっしてデザインの優秀さではない。やはり「新聞広告活動の全過程」を対象に選考する日本でただ一つの表彰制度というところにある。
 ちなみにこの広告を制作した学生達は国立大学の人文学部言語文化学科に籍をおき、普段はデザインの勉強をしているわけではない。さらに云えば、わたしは授業の中で、デザインの「テクニック」や「ハウツー」などはただの一度も教えていない。ゼロである。ただシンプルに「どうしたら伝わるか」「先人の型と方法に学ぶこと」、この二つのみを徹底して伝えてきた。広告づくりのテクニックを学びたければ、デザインを教える専門学校に行けば良い。大学には大学でしか学べないこと、それに加えて大学にはこれまで先人達が膨大に蓄積してきた知がある。それが必ず発想のリソースになる。わたしは最後までそこを意識し続けた。
 課題を出してくださった地元のスーパーマーケットが学生たちに持ち掛けた相談は、仮想の課題ではなく「今現在、実際に企業の現場が困っていること」という切迫したものだった。
 課題はこうである。
 静岡という地方にあるこのスーパーマーケットは、それまで年間約3億円もの莫大な予算を使って折り込みチラシをばらまいてきた。なぜならスーパーマーケットの宣伝戦略はそもそもチラシありきで誰も疑ってこなかったからだ。しかし、これが本当にお客様の役に立っているのか。そう考えたとき、この企業は折り込みチラシを一切廃止し、そこで浮いた予算をお客様に還元する仕組みを考え出した。ただ、それがお客様にうまく伝わっていないのではないか。そこをスーパーマーケットに代わってお客様に伝えて欲しい。表現の一切はお任せしたい。たとえそこに企業にとって不利になる情報が入ってもかまわない。学生からの提案を真摯に受け止めて新聞で発表したい。それは依頼(オリエンテーション)というよりも、力強い宣言にも思えた。 
 そこで学生たちは自分たちの考えを具体的なカタチにして提案、それが今回の新聞広告賞の受賞へとつながったというわけだ。何より良かったのは「今現在、実際に企業の現場が困っていること」というリアリティが互いの緊張感を高めたことだ。しかし、たとえ学生といえども、それは企業の弱みをすべてさらけ出すことになる。それが結果として信頼関係につながったのだ。
 地域連携、協働という言葉がかまびすしいが、本当の地域連携や協働とは、互いの弱みを隠さず、きちんとみせることを出発点とするのではないか。

 なお、学生のみなさんのために、今回審査してくださった先生方のお名前をあげておく。
◎中島祥文先生
http://tokyoadc.hotcore.jp/event/profile_japanese?key1=7051970005775108&key2=Shobun

◎眞木準先生
http://www.enjin01.org/member_list/member_list_m.html


◎今回制作した新聞は、横浜にある「日本新聞博物館」 http://newspark.jp/newspark/に一年間展示されるという。

 いちばんの下っ端が声を上げて申し訳ないが、同賞を受賞された、味の素、大和ハウス、ロッテ、東芝、郵政事業株式会社などのみなさまと、いっしょに喜びを分かち合いたくおもいます。

 わたしはといえば、やっぱり名監督、名コーチを目指していきたい。
 


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