平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

すべては過程である 〜ジョージ・ガモフ

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 ビッグバン宇宙論を「最初」に唱えたのはジョージ・ガモフだとずっと勘違いしていた。ガモフが生まれた1904年は、ロダンが考える人を発表し、日本初の自動販売機ができ、モスクワではチェーホフの『桜の園』が上演され、日本人以上に日本人だった小泉八雲が『怪談』を発表し、日露戦争が始まった。学生のころそのガモフに憧れていた。「最初」がかっこよかったからだ。でも「最初」はベルギーの神父で数学者のジョルジョ・ルメートルだとわかったときには、もはやそんなことはどうでもよくなった。
 そのルメートルの理論は何一つアインシュタインからはみ出していなかったことが災いして、最初はだれも相手にしなかった。彼のあとを歩き始めたガモフもビッグバンの「残照」をどうやって測定するのかという難問には答えられなかった。さらにそこへもってきてイギリスのフレッド・ホイルたちが定常宇宙論を強く提案しビッグバン説を隅に追いやろうとしていた。
 だが、そこにとんでもない発見が待っていた。1964年AT&Tベル研究所の衛星通信技術者ペンジアスとウィルソンが天空の雑音を観測中、そこにある種のノイズがあることに気がついた。この四方八方からやってくるノイズの温度を測定した結果、絶対温度3度であることがわかった。そう、これが実はガモフもうまく答えられなかったビッグバンの残照、宇宙背景放射の決定的証拠であった。
 そういえば150億年とも130億年ともいわれていた宇宙年齢が十年ほど前に発表されたときにはショックだった。きっかけとなったのは精度をあげたハッブル宇宙望遠鏡。実測値と計算式の差異が現状の数字を見直す契機となったのだ。137億年、それが宇宙年齢だ。最初の星は宇宙誕生からはやくも2億年後には輝きはじめていたという。しかも宇宙は曲がっているのでもなく反っているのでもなく平らであることもわかり、今後宇宙は収縮してつぶれる可能性もなくなってきた。また宇宙を構成する正体不明の物質ダークマターはなんと23パーセント、73パーセントがダークエナジーで、現在きちっと名付けることができる水素などの物質はわずか4パーセントであることもわかった。ちなみにダークエナジーとはアインシュタインが予言していた宇宙定数のことである。
 しかし、である。しかし・・・あらゆる科学の現在は「過程」にしか過ぎない。それを忘れてはならない。

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