平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

CHIMAさんと山田ケンジさんの仕事

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 イラストレーターのCHIMAさんと山田ケンジさんの「仕事展」にお邪魔した。 
 まず会場に迎え入れてくださったのはCHIMAさん。彼女は「手仕事」にこだわるイラストレターである。CHIMAさんはイラストレーターといっても、トンネルの壁や中学校のプールサイドのレリーフを担当するアーティストでもある。
 「便利な道具(PC)は取り入れればいいのにね」という山田ケンジさんの言葉を柳に風と受け流し、CHIMAさんはずっと手作業にこだわり続けている。わたしはいろんなところで表明をしているけれど、この手で描くという仕事が大好きだ。意外に早く、お仕事いっしょにできたりして(笑)
 そういえば昨年暮れ、若手のイラストレーターと話していたら「最近、発注者がお金がないから写真を見て描いてください。でも現場に足を運びたからったらどうぞ。予算は出ませんが、って言うんです。都合良すぎです。プリプリ。でもインターネットでいろんな風景が検索できて現場に行かなくて本当に楽になりました〜」ですって。
はいはいはい。とんでもない発注者ですね〜。なるほど、若手をいじめる困った業界です。
こらっ〜!! けしからん!!本物を見ないで描こうなんて魂胆が許せない。許せないのは発注者じゃなくて、若造君、君のことだーっ。それじゃあ、君が軽蔑している発注者と同じ目線じゃないか。
 もちろん実際に見ることのできないものを描けるのがイラストの強み。帆船の断面図を描くので帆船を輪切りにしてくださって言われても無理だし、上空100メートルの鳥瞰図を描きたいのでヘリ飛ばしてください。そうですね〜、三日間飛ばしてくだされば何とかその間に仕上げますって言われてもね〜・汗。それはわかる。そこを越えていけるのがイラストの強みだし、人間の持つ無限の想像力だったりもする。でもね、予算を浮かすために最初から写真だけ見て済まそうという魂胆がダメなんだ。
 CHIMAさん、次に爪を切ったら、若造のために煎じておいてやってください。こういう不届き者は、絶対に頼まれた原稿も読まずに挿絵を描いたりするんですよ。

 CHIMAさんが電話を掛けてくださったこともあり、そのうち専門学校の授業を終えた山田さんが自転車で駆けつけてくださった。はやっ!(きっと仕事もはやいんだろうな〜) 
 会場入り口にある牡丹の掛け軸が抜群にいい。山田さんの作品だ。これを壁に掛けて本の茶会をやってみたい。不思議なもので、空間に掛け軸をしつらえると、そこが一挙に床の間に変わる。掛け軸とは、床の間にかけるものだと思っている人が多いかもしれないけれど実際は違う。「何でもない場所を床の間に変えるためのポータブル装置」、それが掛け軸なのである。床の間という空間が先にあるのではない。掛け軸によってそこが床の間になるのだ。

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 山田さんは、他にも小説の挿絵を描かれるし、一点ものの絵も描く。わたしが気に入ったのは下の「雨」という作品だ。
 静かだ。だがただ静かなだけではない。針で引っ掻いたような細かな雨が画面からはみ出しそうに降っている。家にも見えるし広げた傘にも見える黒い塊が画面全体に心地良い緊張を与えている。垂れた雨水が画面全体をギュッと引き締める。電信柱が静かにゆれる。風に吹かれて唄を歌う。雨に打たれて詩を歌う。 
 山田さんのこんな絵が、絵本になったらいいな〜とわたしはおもう。この絵に物語をつけてみたいな。

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※作品展は4月22日(火)まで。OPEN11:00〜18:00  会場は ギャラリー濱村 静岡市葵区両替町二丁目3-1   会期中平野のサイトを見たと言えば入場無料。最初から無料ですが。

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