平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

浄 闇  〜情報意匠論特別講座・本番 中野純編  2008/01/25

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 今年度の静岡大学人文学部言語文化学科「情報意匠論 特別講座」は、体験作家・中野純さんを講師にお招きした(2008.1.19)。題して「闇を歩く 月と遊ぶ」。 

 特別講座とは、平野の眼で、この人だ!という人を探し出してきて、他の授業では体験のできない特別な時間を共有してもらうことを目的としている。

 足早に過去の特別講座を振り返るなら、2004年度はMCプランニング・薄羽美江さん&脳科学者・茂木健一郎さん、2005年度には劇団ポかリン記憶舎・明神慈さん、2006年度は装丁家のHOLONさんと、そうそうたるメンバーに依頼してきた。

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 今から3年ほど前に神田神保町の書店「自由時間」で中野さんの著書『月と遊ぶ』(アスペクト,2004)を偶然手にして以来、ぜったいにこの方に講師をお願いしたいと「平野雅彦 この人に会いたい手帖」に彼の名を綴っておいて、このたびの月の引力によって実現となった。

簡単に中野さんをご紹介するなら、PARCOで音楽イベントを担当しているときに歌唱法のホーミーと出会う。早々にその技法を身に付けた中野さんは、ウシやクジラにその声を聴かせながら世界を経巡るという体験をする。

そんな中野さんがあるときから月に興味を抱くようになる。終電に乗り遅れ、方便(たずき)ない月明かりの山中をひとり彷徨い歩いたことがきっかけだった。最初は木々の落とす陰と闇夜に恐れおののいていたものの、そのうち辺りを照らし出す月明かりに目が慣れてくると、それは思った以上に明るく、恐怖が興味へと変わっていった。爾来、真夜中に、山中や街中を彷徨するナイトハイクという習癖を身につけたという。

今回の特別講座では、月の暮らしや文化に与えた影響を学ぶなかで、月を引き寄せ月と一体化する方法などを講座形式で学ぶ。
中野さんの話を聞いていると、最近ではすっかり閑事となってしまった月待ちなどの行事が懐かしく思い起こされる。一遊一予に終わらせたくないいくつもの月遊びも教わった。

そうしてそのあと、特別に許可をいただき開門した久能山東照宮1159段の石段を、月明かりを頼りにのぼりつめた。

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山頂で待っていてくださったのは、天空に輝く宮沢賢治の月と久能山東照宮の権禰宜・番定善寛氏で、月明かりの中で明治天皇の和歌を朗々と歌い上げて頂き、「浄闇」の政(まつりごと)の話を頂戴する。神事は月明かりの晩よりも、むしろ月光の一切届かない浄闇の中で執り行われる云々という格別な話だ。なにやら熟面も神妙な顔つきである。

ちなみに権禰宜は「ごんねぎ」と読み、禰宜の語源は「ねぐ」で和ませるの意味を持つ。つまりはニギタマ(和魂)を司る官職ということだろう。
参加者五十数名は、再び下界に向かって自身のカゲを踏みしめながら歩を進め、天空に引っかかる月を「吐月」した。
 
夜の九時、いったん授業をお開きにしたものの、話したりないぞ!という兵十数名が膝を交えて真夜中の3時近くまで、中野さんを囲んで「声」の話で盛り上がった。
 次のテーマはこれかな・・・

 取材に入ってくれた静岡新聞TANI記者は、ご自身も月夜を写す写真家でもある。彼の書いてくれた記事はこうだ。
http://www.hirano-masahiko.com/news/341.html

 石川、東京、横浜から駆けつけてくださった元情報意匠論履修生のみなさま、毎年参加してくださる社会人のみなさま、ありがとうございました。中野さん、本当にお疲れ様でした。そうして今回参加できなかったみなさま、またいつ花。

 さて 夜去らず月夜を観ることを習慣としましょうかね。


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