平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

按田餃子  2018/05/28

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按田優子。2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに(その他諸々生活に変化があって)冷蔵庫のコンセントを引っこ抜いた彼女が行き着いた先が、「干す」と「漬ける」。わざわざ「干す」「漬ける」のために食材を買って来るのではない。余った肉や野菜、魚を干す、漬けるのでる。その方法を本に仕立てたのが、話題となった『冷蔵庫いらずのレシピ』(ワニブックス,2011)である。で、この本がきっかけとなって5年近く1年に一度一ヶ月間、ペルーに国際協力に出掛けることになる。そうして彼女は改めて考える。「毎日の食卓に何品も並べられることが料理上手で家庭的、みたいなことはない思います。そういうモデルは要らないし、それにとって代わる別のモデルも要らないのです。銘々が好きなように料理をすればいいと思います。」(『たすかる料理』p.46,リトルモア,2018)。

『冷蔵庫いらずのレシピ』の出版とほぼ同時期にお店の構想が立ち上がり、ニラもニンニクも使わない水餃子をメインメニューに、2012年「按田餃子」を東京・代々木上原にオープンさせる。ただのおしゃれなレストランではなく、何でもありの中華料理店でもなく、味と健康を追求した「食堂」である。カウンター6席に4人掛けのソファが一つ、決して広くはない店内では、乾電池式のラジオからAM放送が流れている。牛丼チェーンと違って、女性がひとりで食事をしていてもけっして違和感はない。オープンから5年経った今でも開店前から長蛇の列ができ、食べている間にもその列は長くなる一方だ。入口には引き戸式の小窓が付いていて、お持ち帰り客はそこから注文をしている。

その日、わたしが頂いたのは、ラゲーライス定食(木耳・金針菜・豚肉煮込みご飯。単品もあるが、定食には茹で青菜と海藻湯が付いている)と香菜と胡瓜の餃子(個性的でやみつきになる味、とメニューには書いてあった)、本当はもう何品か頼みたかったが、とにかく外の行列を見て少々気が引けたというのが正直なところである(笑)

え、味ですか? もちろんすこぶる美味しいです。でも、何て言ったらいいのだろう。喩えるなら、彼氏が彼女のカラダのことをおもって作ってあげる料理という感じ。料理の得意な男子が女子のためにつくってあげる。相手に喜んで欲しいからつくる味。そんな心のこもった、でも日常の延長にある料理。つまり店員と客という関係を少しだけ超えていく行為が垣間見えるのである。


按田優子は言う。「お店で出す料理だから色合いが鮮やかなほうがいいとか、流行りを取り入れたほうがいいとか、飲食店にある約束事のようなことは気にせず、自分の好きなようにメニューを作り続けたいです」(同p.46)。「私にとって料理は学問でも道でもないのです。しいて言えば台所で個人的な神話を紡ぐようなものです」(同pp.76)。「神話」、按田さんが大事にしている考えかただ。


ところで、按田さんの単著3冊を読むと、一般の料理本とは明らかに違っていることがすぐに分かる。 どこが! レシピももちろん公開しているものの、それと同じぐらいのボリュームを割いて、いや、本によってはそれ以上に彼女の料理に向かう目線、つまり生き方についての考え方が生き生きとした言葉で綴られている。そこに共感する者は、必ず、按田餃子詣をして、そうして再訪する。密林(Amazon)の評価を覗くと、料理本だと思ったのにエッセイのようだ、といった意味の評価が書かれているが、彼女は料理に向かう態度こそ重視しているのである。

わたしが住んでいる静岡県は、食材にはひじょうに恵まれている土地である。なんと言っても駿河湾の海底から富士山のてっぺんまでの標高差は、水深2500メートル+標高3337メートルで、約6000メートルにもなる。この高低差が、そのまま生物(食材)の多様性を物語っている。日本の魚類は淡水魚を含めて約2300種類いると言われているが、うち駿河湾には約1000種類がいるそうだ。しかし、そんな静岡にもないものが一つある。それが按田餃子だ。
そうだ、静岡大学が取り組んでいる「アートマネジメント人材育成のためのワークショップ100」(この6月11日開講)では、そこを解決する課題に取り組めばいいのだ。

というわけで、ワークショップ100を受講する方々には、スペシャルな時間が約束されたのである。とだけ、ここには書いておこう。




◆静岡大学 アートマネジメント人材育成のためのワークショップ100 公式サイト
http://shizuokauniv-artsmgmt.com/workshop100/

http://shizuokauniv-artsmgmt.com/workshop100/teachers/teachers-1763/


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(↑)こそっと耳打ちしたくなる餃子。

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(↑)ラゲーライス

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(↑)ショップカードの裏面は、木漏れ日の降り注ぐ林。



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