平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

就職先は、日本一有名な鳩の店  2018/04/30

hato



今更わたしがここに記すまでもないが、みんなの記憶からやや薄らいで来たので、ここに再び記しておく。

まずは、鎌倉市長・松尾たかし氏の公式ブログ『松尾たかしの政治日記』から引用(2013年5月5日付)。
http://www.matsuonet.com/archive/mtn_cgi/diary/201305.html

「〈厳しい財政状況下における収入確保策〉 鎌倉市はここ数年、毎年税収が減少しており、不交付団体から交付団体に転落する可能性もあるなど、大変厳しい財政状況下にあります。
そんな中、あらゆる手段で市の収入を確保するための努力を全庁を挙げて行っており、その1つが、ネーミングライツです。
この度、鎌倉市海水浴場のネーミングライツ・パートナー決まりました。

鎌倉市が、『海水浴場』のスポンサーとしてご協力をいただくネーミングライツ・パートナーを募集したところ、4月26日(金)までの公募期間中に、企業8社と個人1名から応募がありました。
この間、「鎌倉市の地名を切り売りするのか」「鎌倉市の歴史を軽視しているのではないか」など厳しいご意見をいただいておりましたが、決して、海の名前や地名を売るのではなく、夏のおよそ2か月間開設する『海水浴場』の名前、例えばこれまでは「由比ヶ浜海水浴場」だったのが「○○由比ヶ浜海水浴場」となるものです。
審査委員会において、それぞれの応募提案について審査した結果、株式会社豊島屋の提案が総合点で第 1 位となりました。
なお、海水浴場の愛称は、株式会社豊島屋の社名や商品名を付けるのではなく、今後、鎌倉市民や海を愛する人から広く公募して決めることとします。

【ネーミングライツ・パートナー】
株式会社 豊島屋(鎌倉市小町二丁目11番19号)
代表取締役社長久保田陽彦
ネーミングライツの対価 1,200 万円 (年額)
ネーミングライツの期間 平成25年度から平成34年度まで

ちなみに、今年は、公募の時間がありませんので、これまで同様の名称(由比ヶ浜海水浴場、材木座海水浴場、腰越海水浴場)になります。」



【参考サイト】◆鎌倉市観光商工課公式サイト
・鎌倉市海水浴場ネーミングライツ・パートナー募集について
http://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kankou/namingrights.html

・鎌倉市海水浴場ネーミングライツ・パートナーの決定について
http://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kisya/data/2012/documents/ne-minguraitupa-tona-.pdf


「ネーミングライツ100万円(年額)以上」の条件に1200万円を捻出し、10年間 1億2千万円で命名権を取得した「鳩サブレー」で有名な豊島屋社長・久保田陽彦氏は記者会見で、「『鳩サブレー海岸』にはしたくない」と笑顔で話し、商品名は使用しないことを明らかにし、ネーミングを一般公募することにした。つまり、独断で決めるのではなく、敢えて広くみんなの意見を聞くことにしたのだ。

◆タウンニュース鎌倉版(2014年3月7日付)
https://www.townnews.co.jp/0602/i/2014/03/07/228068.html

「(株)豊島屋の久保田陽彦代表取締役社長は2月27日、市役所で記者会見を開き、海水浴場の愛称を募集する、と発表した。
 採用された愛称は5月の「鎌倉ビーチフェスタ」で発表され、2016年までの3年間使用される。久保田社長は「多くの人に愛されるような名前を待っています」と話した。
 豊島屋は昨年、3海水浴場のネーミングライツパートナーとして10年間、市と契約した。昨年は公募の時間が不足していることから従来通りの呼称で開場した。
 応募資格は「鎌倉の海を愛する人」。愛称にはそれぞれ「材木座」「由比ガ浜」「腰越」と「海水浴場」または「ビーチ」を付けることが条件で、3パターン、ないし3浴場共通の愛称を応募できる。また、同時にロゴデザインも募集する。
 応募は1件につき1案(3浴場それぞれ別案の場合は3案)で、他の愛称と類似しないもの。応募用紙と応募ポストは豊島屋の本店と鎌倉駅前扉店、市観光商工課、各行政センターに置かれるほか、郵送またはメールの場合は愛称またはロゴデザインと愛称の由来・理由、住所、氏名、職業(学校)、電話番号、年齢、性別を明記の上、〒248-8691鎌倉郵便局私書箱5号「豊島屋ネーミングライツ事務局」または【メール】kamakura.umi.meimei@gmail.comへ。3月28日(金)消印有効。問【電話】0467・61・3884市観光商工課へ。」


そうして、「愛称を募集していた鎌倉銘菓『鳩サブレー』で知られる『豊島屋(としまや)』(同市)は15日、愛称が現名称と同じままの由比ガ浜(ゆいがはま)▽材木座(ざいもくざ)▽腰越(こしごえ)-の各海水浴場に決まったと発表した。」http://www.sankei.com/life/news/140516/lif1405160013-n1.html『産経ニュース』2014.5.16)

つまり、このニュースは、下品な名前の付くおそれのあった海岸を、久保田社長がカラダをはって守ったというものだ。

なぜこんなことを長々と書いたのかと言うと、友人のお嬢さんが、この春、この鳩サブレーの豊島屋へ就職し、東京都内の某デパートの売り場に配属されたからだ。就職活動では、横浜市内の超高層ビルに入るバブリーな会社を知人から勧められていたというが、最終的に彼女が選んだのは、豊島屋だったという。

きょう出張の際に、予告なしに売り場に顔を出すと、「ひ、ひ、ひらのせんせい!!」と、彼女は鳩が豆鉄砲を食った(食らった)ような顔をしていたが、直ぐにいつもの元気いっぱいの笑顔になって接客してくれた。

よかったね、すばらしい会社を選択できて。
また寄ります。


【参考】
「沖縄在住の政治学者ダグラス・ラミスは言う。芋とかニンジンとか大豆とか豆腐とか、日々の生活に不可欠なもののコマーシャルはない。コマーシャルは、基本的にいらないものを買うように消費者を説得するためのものだ、と。」(松村圭一郎『うしろめたさの人類学』ミシマ社,2017,p130)

この言説を借りるなら、鎌倉市の海岸は鎌倉市民にとっては生活そのものだから、一時だけの消費を後押しするようなネーミングは不要ということだ。地名は地域のアイデンティティそのものである。



※以上、引用サイトは、2018.4.30 検索



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