平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

岩波文庫創刊90年記念 「私の三冊」『図書』  2017/05/11




昭和二年七月、岩波文庫を発刊した岩波茂雄は、こう語った。

「携帯に便にして価格の低きを最主とするがゆえに、外観を顧みざるも内容に至っては厳選最も力を尽くし、従来の岩波出版物の特色をますます発揮せしめようとする。この計画たるや世間の一時の投機的なるものと異なり、永遠の事業として吾人は微力を傾倒し、あらゆる犠牲を忍んで今後永久に継続発展せしめ、もって文庫の使命を遺憾なく果たさしめることを期する。芸術を愛し知識を求むる士の自ら進んでこの挙に参加し、希望と忠言とを寄せられることは吾人の熱望するところである。その性質上経済的には最も困難多きこの事業にあえて当たらんとする吾人の志を諒として、その達成のため世の読書子とのうるわしき共同を期待する。」(部分)

今でも必ず岩波文庫のしりえに挟み込まれるステートメントである。

たまたま書店で手にした岩波書店のPR誌『図書』(2017.5)臨時増刊号「私の三冊」を移動中の新幹線のなかで読む。岩波文庫創刊90年を記念して、読書人228のアンケート結果をまとめたものだ。
以下、一冊90文字程度の案内から、更に部分を引用してみたい。敢えて、推薦された書名は記さない。


「内村鑑三はどうやら『源氏物語』を読んでいないなと思えて、安心した」 「発情する獣性と人間性が犬身の内側から描かれた傑作。死ぬ前に読めてよかった」 「いつでもどこでも、ポケットにこいつが入っていた。じつは今でもそれは変わらない!」 「近代日本哲学の中でも、もっとも純度の高い珠玉のエッセーだ」 「彫琢の限りをつくした抑制のきいた散文は近代日本語の最高水準をしめている。血肉としたい不朽の文体」 「日本近代詩を現代詩に転生させた九十年近い詩業が一望できる極上選詩集」 「精巧な工芸品のような典雅な日本語が読む者を圧倒する本翻訳が、いまだに岩波文庫に収められていることは喜ばしい」 「性の深淵に潔癖さも覗く錯綜した情念の闇を見つめる問題作」 「超古典主義を標榜する真に画期的な評論集」 「註をふくめ、日本のフランス文学研究の金字塔だと思う」 「この点の誤解を生み出した議論の混乱には恐るべきものがある」 「是非、是非、復刊を」 「読後、思索すること必定」 「近代日本哲学を代表する著作だが同時に文学と哲学を架橋する詩学という越境があることを高らかに告げる一冊でもある」 「注を施した個人の私家集で、これだけ安心して拠りどころにでき、かつハンディ至便の書も珍しい」 「中世和歌の研究は、根本的な部分で、ここからどれだけ進んだろう。自問せざるを得ない」 等々。 

これだけの言葉を目の前に差し出されたら読まずにはいられないだろう。ウズウズ。
ところで、わたしの書棚にも岩波文庫が200冊以上はある。熟読したものもあれば、いつも手元にあって角が丸くなってしまったもの、お守りのように備えてあるもの、いまだにまったく歯が立たないもの、大学の授業で強制的に読まされたもの、何かの折に頂いたもの、なぜか三冊もあるもの、あるいは買ったまま放ってあるものまで様々だ。そんななか、わたしなら、どんな三冊を選び挙げるだろう。う・・こまった、こまった、おおいに困った。

『即興詩人』(アンデルセン/森鴎外訳) 『ロウソクの科学』(ファラデー/竹内敬人訳) 『意識と本質』(井筒俊彦)か・・・『山月記』(中島敦)や『地獄の季節』(ランボー/小林秀雄)、『若きウェルテルの悩み』(ゲーテ/竹山道雄訳)、『イタリア紀行』(上中下,ゲーテ/相良守峰)も挙げたいが、これらは全集や岩波以外の書籍で読んだので敢えて外す。



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