平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

オリンピック・パラリンピックは「スポーツの祭典」ではない   2015/10/17


2020年 東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下2020年 東京大会)のエンブレムが再び動き出した。その様子を見ていて少々不安があるので以下に記す。

「オリンピック憲章」という、オリンピックの憲法のようなものがある。
http://www.joc.or.jp/olympism/charter/pdf/olympiccharter2011.pdf
その冒頭部分「オリンピズムの根本原則」の第一項には、こうある。

「オリンピズムは人生哲学であり、肉体と意志と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた 総体としての人間を目指すものである。スポーツを文化と教育と融合させることで、・・・・ 」

つまり、オリンピック・パラリンピックは、「スポーツの祭典」であるとは記されていない。

以前、東京2020エンブレム委員会委員長・宮田亮平氏が委員の王貞治氏の意見を採り上げて、オリンピックはスポーツの祭典、力強く分かりやすいエンブレムを検討したいというようなことを述べていたのが気になっていたが、新エンブレム公募条件を読んでみて、やはり、という感じを受けた。
http://www.tokyo2020.jp/jp/emblem-selection/

新たに公募されたオリンピック・パラリンピックの新エンブレムのキーワードには、その最初に“スポーツの力”とある。この記述では誤解を招くことにならないか。本来なら、“スポーツを文化と教育と融合させた力”と記述すべきところではないか。キーワードはその後に“日本らしさ・東京らしさ” “世界の平和” “自己ベスト・一生懸命” “一体感・インクルージョン” “革新性と未来志向” “復興・立ち上がる力” とつづく。

繰り返すが、オリンピック・パラリンピックは、「スポーツの祭典」ではない。もちろんスポーツも行うが、「だけ」ではない。スポーツを文化と教育と融合させることで開ける世界をいう。
その証拠のひとつに、国は、2020年東京大会における「文化プログラムの実施に向けた文化庁の基本構想」でも「文化力プロジェクト」20万件を数値目標に掲げている。
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2015071701_besshi1.pdf
(「4年間で文化イベントを20万件――。2020年東京五輪・パラリンピックに向け、文化庁は17日、史上最大規模の文化プログラムを展開した12年のロンドン大会を上回る数値目標を発表した。下村博文文部科学相は会見で「全国的機運を高めて、2020年以降の『文化芸術立国』の実現も目指していきたい」と話した。」http://www.asahi.com/articles/ASH7J61BDH7JUCVL00Z.html 朝日新聞デジタル版 2015年7月17日17時02分配信、2015年10月17日アクセス)
また先に挙げた基本構想「1 文化庁の取組を進める上での三つの方針、七つの戦略」の方針2「文化芸術の人材育成・確保、新たな文化芸術の想像」戦略④では、「大学、大学生等の参加」がうたわれ「大学の教員,学生等による企画立案・実施を推進する。全国における取組の記録や評価も行い,将来の文化芸術の人材育成に寄与する。さらに,産学金官連携等によるアートと科学技術等との融合による人材育成やイノベーションの創出を促進する。 」とあり、確かに教育との融合を強調する。


エンブレムの話に戻る。
そうして、最後の最後は、人気投票や門外漢の「わたしはこれが好き」という感覚で選ぶのではなく、デザインの専門家がその根拠を示し、知識と経験から責任を持ってエンブレムを選ぶべきだろう。
そもそもデザインとは、問題解決の手法であり、人々をより幸せな方向へと導く方法と思想の総体である。

わたしは、2020年 東京大会には大きな期待を寄せている。そのためなら微力ながら某かの力になりたいと思っている一人であることを末尾に添えておきたい。



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