平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

ジャストサイズの上質な美術館 2013/07/22



過日、伊豆・松崎へ打ち合わせに出かけた。
そのあと、足を少し伸ばして下田へ。松崎からハンドルを握ること30分弱。下田といってもシーサイドではなく緑の濃い山の中。

この何でもない風景の中に、果たして目的の美術館は見つかるのだろうか。「経路から外れました 経路から外れました」。ナビが喧しく道路サインとは別の道を教える。道中、住宅はあるものの、やっぱり山中には変わりない。そんな自然の中に、くだんの美術館はあった。




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( ↑ ↓ )イギリス人彫刻家リン・チャドウィックの《三人の衛士》

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上原近代美術館は、洋画の展示室と日本画の展示室の二つが併設される(正確には三部屋)。
洋画のそれは、どのくらいの広さといったらいいのだろう。実測したわけでもないし、壁面の作品を数えたわけでもないので(しまった!)わからないが、部屋の四面、それぞれに7〜8枚の作品が掛かっていたように記憶する。日本画のそれは二部屋に仕切られていて更に狭く、全部で20作品程か。確かに狭い。

いやなに、このサイズが実に気持ちがいいのである。なによりも一枚一枚の絵(画)ときちんと向き合える。もちろん大型の美術館では、一人の作家の多くの作品を一堂に観ることができ、テーマで観ることも可能だし、年譜形式に並べられた作品を観れば変化、転換点、時代や他者の影響が比較的容易に見て取れる。
ただし、わたしなどはともすると、目の前の作品を観ながらも隣の作品に誘惑され、つい先を急いでしまって気付いてみると一点一点ときちんと向き合うことを忘れていたりする。

そうった意味で、この小さいけれども良質な作品を収集・研究・展示する上原近代美術館は、一点一点の絵(画)と向き合うには、恰好の美術館である。


セザンヌ、ルノワール、マティス、ピカソ、モネ、コロー、シスレー、梅原龍三郎、小林古径、伊東深水、安井曽太郎、藤島武二、中川一政などが並ぶ。くどいようだが、この山中の小さな美術館に、である。
ずっと気になっていたアンドレ・ドランの『婦人像』(1923年頃)に出会えたのが何よりもうれしい(思った以上に小さい)。野田九浦の『夏富士』(作年不明)は初めて観た。須田国太郎の『山の斜面』(1920年 油絵)が圧倒的な力強さで迫ってくる。この絵をわたしは好きだ。

中でも小林古径の『石榴』(1944年)や『枇杷』(1944年頃)の静謐なフォルムには固唾を呑んだ。この確信を持った線。きっと古径にはスケッチの段階からすでに一本の線が見えていて、そこへメスを入れるように筆を走らせるのだろう。別の場所で観た記憶のある『出湯図』(1918年 絹本彩色)や『髪』(1931年 絹本彩色)でも同様の印象を持った。それは柿実を描いても栗を描いてもまったく同じ印象である。古径の言葉を引用するなら「叩けば音のするようなお盆」という描写を言うのである。新潟の小林古径美術館へも行ってみたい。




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( ↑ )休息ができるラウンジ。ゆったりとした大ぶりのソファもあり、飲み物はセルフ。この館で発行した図録類も揃っている。手前の庭と遠くの山並みが、一枚の絵をつくっている。
何を話した訳でもないが、受付に座っていた方の感じがとてもよかった。

現在、開催中の展覧会。
『フランス近代絵画 光と色彩のひみつ 〜印象派、ボナール、マティスらの技法と表現』(2013年6月6日(木)―9月11日(水))


■上原近代美術館公式サイト
上原近代美術館は、大正製薬株式会社社 名誉会長を務めた上原昭二氏の収集、愛蔵した美術品をもとに、2000年に伊豆・下田市に開館した。
http://www.uehara-museum.or.jp



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