平野雅彦が提唱する情報意匠論| 脳内探訪(ダイアリー)

平野雅彦 脳内探訪

取り違えられたゲーテ鉱   2010/06/24

yuuyake3

Q 自宅から見た本日の夕焼け。ちなみに 夕焼け小焼けの、小焼けって? 


ゲーテJohann Wolfgang von Goetheというと『若きウェルテルの悩み』とか『ファウスト』『イタリア紀行』『親和力』あたりがすぐに思い浮かぶ作品。『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』とか『色彩論』を挙げる方がいたら、それは学生時代にドイツ文学をかじったか、あるいは図書館の司書あたりだろう。
またシューベルトがゲーテの詩にたくさんの曲を付けたことを識っている方は多いが、ゲーテ鉱(針鉄鉱)という鉱物をご存じとなると、さすがの司書もぐっと数が減るのではないだろうか。
ゲーテの『イタリア紀行』を読み進めていくと、普通なら「粘り気のある岩石」とか「そそり立つ巨大な岩」などと書くところを、粘板岩や重晶石、黄鉄鉱などの具体的な鉱物名がいくつも出てくる。ゲーテはなんと鉱物の専門家で、ドイツ鉱物学会創始者の一人なのだ。
ところで、このゲーテ鉱のことをいくつかの辞典で調べてみると、1806年にGothitと名づけられ、後にGoethite(ゲーテのスペルはGoethe)となったことがわかる。更に後、なぜだか同じ鉱物が鱗鉄鉱と名づけられてしまう。そうしてやっと1833年にこの鉱物はGoethiteに統一されることとなる。
ところが、である。後にアルフレッド・ラクロアAlfred Lacroixというフランスの鉱物学者がこれを光学的に再検証してみたら、二つの鉱物は別物だと判明、再び二つにわけられることとなった。
だが、話はここからで、もう一度ラクロアがこの二つをわける際、凡ミスをしてしまう。ラクロアが改めてゲーテ鉱とした鉱物はなんと鱗鉄鉱で、鱗鉄鉱と名づけた鉱物がゲーテ鉱だったのである。で、なんと現在はこの取り違えたままになっているのだ。
もう、何が何だかわからない(笑)
原稿を書く手を休め、机の上にある化石や鉱物を、ぼーっと眺めていたら、ついついこんなトリビアが書きたくなった。

yuuyake2

A 小焼けは、夕焼けがだんだん薄れていくことです。




この場にアップした内容は、その後、数日間は激しくペンを入れる場合があります。

バックナンバーはここ↓から。「表示件数」を100件に選択すると見やすくなります。

現在地:トップページ脳内探訪(ダイアリー)

サイトマップ